窓の外から喧騒が聞こえてくる。 俺はうっすらとした視覚のなかで体を持ち上げた。 近所の商店街で縁日が行われているらしい。 時間は夕方。たぶん一番盛り上がる時間だろう。 でも今の俺には関係ない。 今日午前中ずっと部屋の大掃除をしていた。 大家さんが今朝、明日部屋の検査をすると言いやがったのだ。 故障などしてないかを見るためなのだが、幸いに俺の部屋にそんなものはない。 しかしぐちゃぐちゃごちゃごちゃでこれはまた悲惨な状況だ。 悪いことはしてないがいい顔はするはずないだろ?大体俺が嫌だ。 とりあえず善は急げとやっているうちに日がてっぺんに昇る少し前に終わってしまった。 いつもよりすっきりとした我が家でボーッとしていたらどうやら眠ってしまったらしい。 だけどまだ疲労感は残るし、別に祭りに興味はない。 俺も変わってしまったな。昔は友達と朝から夜まで行っていたものだ。 プルルルルー プルルルー プルルルー 携帯の着信が鳴る。 一応断っておくがこれは携帯の着信音である。俺はシンプル主義者なんだ。 無視したい気持ちを抑え液晶画面を見る。公衆電話?電話を取った。 「もしもし…男?」 正直驚いた。こいつから電話をかけてくるとは。 「私、ツンヨワだけど」 ツンヨワは俺のバイト先の同僚。 いつも何故か俺につかっかってくる気の強い奴だ。 でも根はいい奴であり頭が早く、バイト間のリーダー的存在。 皆から慕われており、まあ、俺も少しは助けてもらったりはしている。 しかしこいつから電話してくるとは…初めてじゃないか? 夏に雪でも降ったら大騒ぎだぞ。 「俺だけど」 「今暇?」 暇だけど、確かに暇だが体がだるい。 悪いが下らない用事だったら即座に電話を切りもう一眠りさせていただくことにしよう。 「あの…その……あんたえん…」 「えん?」 「え、あ、えっとえ…」 やけに歯切れが悪いな。いつもからは想像できない。 「え…え………すぅーはー」 深呼吸をするときは受話器から放してくれ、ノイズが煩わしくてたまらん。 「あ、あんた縁日行った?」 「え?ああ、うちの近所でやってるやつか」 「行ったの?」 「行ってない」 「じゃ、じゃあこれから、駅前に来てっじゃあ」 「え、ちょっとま」 切れた。まさかこっちが切られるとは。あいつらしいとも呼べるが。 駅に着くと、道路の割りに大きく作られた歩道の、サークルに立っている樹木。 それを囲むようにしてできている丸型のベンチにツンヨワが落ち着きなさそうに座っていた。 「…よお」 「あ…」 「……行こうか」 「そ、そうね」 俺とツンヨワは一年で一番賑やかな商店街への道を歩いた。 周りを見ると、俺たちと進行方向が同じ人も少なくない。 「…あの、やっぱり1人できたほうがよかった?」 「祭りなんて、一人よりは誰かといっしょにいったほうがいいだろ」 「……ごめん、ごめんね」 いつもそうだ、ツンヨワは俺に何か少しきついことを言ったり、強引にしたとき 今のように顔をうなだれてその言葉をつぶやく。 俺はそんなことしてほしいなんて、一言も言っていないのに。 俺はツンヨワの手を握った。 ツンヨワはびっくりして顔をあげたようだ。その表情は俺には見えない。 だってそうだ。俺だって、きっとこいつと一緒で頬を染めているから。 さっきまで興味のなかった遠くに見える幾つもの灯りたちは 今の俺にはとても魅力的に感じられた。 ><ツンヨワの性格難しすぎて続けられる気力ないんです。