「いらっしゃいま……って、お前か」 マニュアル通りの丁寧な挨拶。まぁ、普通の客ならしかたないし、美人なお姉さまなら大歓迎だが、 「それが客に対する態度なのかよ」 と、目の前で可愛らしく――これが素だったらこいつは男じゃない――している目の前の我が親友には適合されない、ってかしたくない。 まぁ、男にしては低い身長から見上げられて、その、上目遣いとかにはドキッとはしたが。 相変らずの女顔。その手の筋のお方なら即行でテイクアウトだろう。 だが、俺はノンケなんだ。ノーマルなんだ。女の子が好きなんだ。 「そう……何かの間違い……俺は女の子が……」 「ドアの前で突っ立つのはご勘弁願えます?」 ブツブツと呟いてた俺の背中から急かすような声が聞える。 ハッと背後を振り返ると、金髪縦ロールといういかにも、な店員が不機嫌そうにこっちを睨んでいる。 お嬢だ。俺としては、その高圧的な態度でかなり苦手としている一人である。 ここで逆らってレバーブローでも放たれたら昇天してしまう。 イエスマム、とばかりに俺は『アッー!!』を席へと案内した。 「ご注文が決まりましたら、お呼び下さい」 お冷とおしぼりを机に置き、俺は厨房へと向かった。 味付けなどには一切関われないが、皮むきなどの下ごしらえはよくやらされる。 立場的には、喫茶店の雑用であろう。 まぁ、もう慣れたもの。チャッチャと終らせて、次の仕事に…… 「……これ」 うわぁぁぁぁぁぁ!! な、なんだなんだ? あまりの驚きにジャガイモを取り落としてしまった。 「…………」 無言で――なぜかタイになっている――荒縄に手をやって無言で厨房の奥に消える『ダウナー』さん。 「ちょ、ちょちょちょちょっと待ったぁ!」 ポーズだけとはいえ、流石に止めないと言うのはマズイ。 いつもならストッパーの『バンドっ子』も、今日はスタジオ練習だそうだ。肝心な時にいないやつめ。 「何をしてらっしゃるのかしら? はやくして下さらない?」 「注文いいですか?」 ツンヨワは買出しだし、店長は料理を作り続けてるし、 「ああ、お嬢『アッー!!』の方へ回ってくれ。『ダウナー』さんを止めてからすぐフロアに行く!」 忙しいけど、これが俺の日常。 「…………」 「『ダウナー』さん、お願い。ストップ」 「ただいまぁ。こら! 『主人公』、なにボサッとしてんのよ! 早くダウナーさんを止めなさいよ」 「『ツンヨワ』か。お帰り。いや、今かやろうと……」 「あ、ただいま。……じゃなくて、ああもう問答無用!」 ……日常なんだけど。 なんか最近、疲れてきたなぁ。